スロベニアのアルプス地方
国土の2%という小さい面積でありながら、スロベニアにはアルプスがあります。この国で一番高い山であるTrigrav(トリグラウ)はこの地方に位置しており、スロベニアの国民的スポーツとも言えるスキー競技もこの地方で試合や練習が行われています。
日本人にとってアルプスって馴染みがないし、多くの観光客の方、特にツアーで来られる方はここを見逃しがちです。自然も雄大で、空気も澄んでいて、感動すること間違いなしなのです。
順を追って、この地方の特徴を記していきます。
アルプス地方には、スロベニアで一番高いユリアンアルプス、カムニシュコ- サヴィンスケアルプス、カラヴァンケという3つの 山脈から成り立っています。これの山脈の高さは全て2000m以上で森林限界、つまり高い木々が成長できない地域となっています。
ユリアンアルプス (Juljisje Alpe )
3つの山脈の中で最も広大なのはユリアンアルプスです。2864mの高さで、スロベニアで一番高い山であるトリグラウはここに位置します。もちろんこれでだけではなく、他にクルン、プリソイニックなど美しい山がそびえています。
写真2ユリアンアルプス |
ユリアンアルプスの南東には、木々が生い茂った山々、ポクリューカ(Pokljuka)、メジャクラ(Mežakla)、イェロヴィッツァ(Jelovica)があります。
ユリアンアルプスの西側にはコリトニッツァ川とともにソチャ渓谷があります。ボヴェッツという街にはソシュカ渓谷が広がっています。ソシュカ渓谷の上部はトレンタと呼ばれる場所で有名です。交通が良くなく放棄されていましたが、今が観光業がテコ入れをして、夏避暑地として訪れる人々が増えてきました。
写真3: 夏のボヒン湖 |
写真4;クランスカゴラと湖 |
ユリアンアルプスの南西部には、ボヒンがあります。小さく深い盆地があり、それは有名な氷河湖、ボヒン湖となります。このボヒン湖の源流はサヴァ・ボヒン川です。サヴァ川はスロベニアで一番長い川で、クロアチア、ボスニア、を通りセルビアでダニューブ川となる川なのですが、その分流として、サヴァ・ボヒン川の他にサヴァ・ドリンカという川もあります。この川はユリアンアルプスの上部にあるドリーナと呼ばれる渓谷を流れていて、この渓谷はユリアンアルプスとカラヴァンケの境界に位置しています。そしてそこに位置しているのが、アルプスの観光名所として有名なクランスカ・ゴラです。あのスキージャンプ選手、葛西紀明選手はこのクランスカ・ゴラで練習することもあるんですよ。ここから西へ約15キロいきますと、産業で有名なイェセニッツェという街があります。
写真5クランスカゴラにあるプラニーナ。ここで毎年スキージャンプの世界大会の最終戦が行われます。葛西選手も毎年来てます。 |
ユリアンアルプスを含むこれらの地域はなんと、トリグラウ国立自然公園となっていてお隣の国のイタリアやからオーストリア、もちろん地元の人もよく訪れる観光スポットになっています。
カムニシュコ - サヴィンスケアルプス (Kamniško-Savinske Alpe)
カムニシュコ-サヴィンスケアルプスは、ユリアンアルプスの小さいバージョンのような感じですが、範囲が小さくこの地帯の一番高い山もユリアンアルプスに比べると低いです。ちなみに、この地帯で一番高い山はグリントヴェッツという山で頂上の高さは2558m です。この山はこの地帯の南東に位置しており、高い山脈が連なっています。とっっても有名な山脈はヴェリカ・プラニーナ(Velika Planina)といい、地元の人にも、家族連れにも人気な場所です。
このアルプスの領域には、コクラ、カムニシュカ・ビストリッツァ、サヴィーニャという3つの川があります。コルカ渓谷はこのカムニシュコ-サヴィンスケアルプスの中心部からストジッチという山に分かれます。その山の上部にはイェゼルスコスパリゾートがあります。サヴィーニャ川の流域には有名な山谷があり、その中でも有名なのはロガルシュカ・ドリーナ(Logarška dolina)です。
写真7:ロガルシュカドリーナ |
カラヴァンケ(Karavanke)
カラヴァンケの山脈は一番小さい地帯となっていて、東西に細長く伸びて、オーストリアとの国境に接しています。この地帯で一番高い山はストル(Stol)という山でオーストリアにも続いている山です。頂点は、2236mです。
地表面
アルプス地方にはなんと中生代の石灰岩や白雲岩が含まれており、こちらもカルスト台地となります。ただし、カラヴァンケ地帯は例外にあたるようです。
写真8:Škraplja |
写真9: Žlebič |
写真10: Kotliči |
アルプス地域では石灰性の傾斜やてっぺんが鋭い地表が見え、ある場所では高山フロア(visokogorski podiと言います。本当にどう翻訳していいか:泣) に変わります。このフロアはカルスト地形のもので、多様性に富んだ景色を見ることができます。ŠkrapljaやŽlebičといった形もありますし、一番知られているのはKotličiという形のものです。Kotličiの特徴は、空洞に似た長い穴で夏場でも雪で埋まっていることがあります。またこのフロアには、たくさんのカルスト洞窟や道に穴がポツポツあいていることも特徴と言えます。
高山フロアの大地は土に覆われておらずむき出しなので風化していきます。したがって道上にある穴や壁も風化していきます。そうすると削れた石が砂利となって、大地の上に積もっていくのです。これをスロベニア語でmelišče、英語でscreeといいます。スロベニアの高い山を歩くと、本当にこのような道が沢山あります。
時には傾斜部分の大きな部分が石として削られていることもあり、落石(スロベニア語でpodor)してしまうことも。 トレント渓谷では、こういった落石があるので特別なアラームを要しなければなりませんでした。今でもこういった危険は潜んでいます。
写真11:melišče |
時には傾斜部分の大きな部分が石として削られていることもあり、落石(スロベニア語でpodor)してしまうことも。 トレント渓谷では、こういった落石があるので特別なアラームを要しなければなりませんでした。今でもこういった危険は潜んでいます。
氷河期の時、地表は氷河(氷のシートのよう)があり、今のスロベニアのアルプスを覆っていました。当時は気候は非常に冷たかったです。途切れることない氷のカバーは、地表の高い全ての部分を覆い、特別な氷河は渓谷にまで及びました。その氷河は谷を削りながら溶け出し、時間をかけてゆっくりと砂、どろ、小石、砂利などが堆積していきモレーン(Ledeniški moren日本語ではU字谷)と呼ばれる地形となりました。アルプス渓谷は、その時アルファベットのU字のような形をしていたそうです。今ではアルプス地方に大きな氷河はありませんが、二つほど小さな氷河が残っているそうです。
写真12:U字の谷 |
次第に気候は暖かくなっていき、氷河は溶け出し、地表は水、川の急流に覆われるようになりました。海へ続く道を作り出す間、渓谷を作っていきました。その中の一つに、ブレッドにあるヴィントガル渓谷(Vintgar)があります。数mの幅に10mの深さの渓谷というとてもユニークな形をしていてます。
アルプスにある川や流れはよく、急流の特徴があります。雨になると水面が上がり、干ばつになるとあるところは水がなくなり川底が丸見えになります。川底も鋭くなっているので注意が必要です。しかし全ての川というわけではありません。中にはこの特徴があまり見られない川もあります。(Predalpskiの地域は特にそうです)
氷河に覆われていた結果として、なんと氷河湖があります。有名なブレッド湖やボヒン湖だけではなく、高山の湖(visokogorsko jezero)もあります。一番有名なのはトリグラウ湖(Trigravsko jezero)、またクルン湖( Krnsko jezero)も有名です。
写真13:クルン湖 |
気候
気候は高山性気候と言えるでしょう。他のスロベニアの地域と比べ、平均気温は低く、降水量の平均は高いです。気温は海面が高けれ高いほど低くなります。基本的に夏と冬はある程度異なります。
気温
夏には気温の変化は山脈地帯と高山の場合は本当に違いがあります。川沿いや山脈地帯は夏は非常に暑く、上の方へ行くと落ち着いていきます。実は、夏の暑さを避けるために山のリゾート地で休むお客さんも多いのです。冬の基本差は、川沿い、山、もっと上の方と差はあまりありません。しかし一年を通し、天気がコロコロ変わるのも特徴です。
降水量
降水量は、東側よりも西や南部の方が多いです。特にユリアンアルプスの方は多いですね。カニン(Kanin)という山では一年に1m以上もの雪が積もることがあるのも納得です。カムニシュコ-サヴィンスケアルプスやカラヴァンケはユリアンアルプスに比べて降水量は少ないです。
基本的には高い位置にあるところほど降水量が多く平均気温が低いと記憶しておけば大丈夫です。
しかし気温が異なるということはアルプス地方の斜面からもわかります。図を見ながら下から見ていきましょう。
一番下の部分はモレーンの堆積物その上に砂利、そして牧草地となっています。その上方には混ざり合うように落葉樹林の森がそびえています。またそこにも空き地のようになっていますがここも牧草地で、特にスロベニア語ではsenožetと呼ばれています。牧草地にも区別があるなんて、さすがです。だんだんと針葉樹林の森と移ります。針葉樹林は標高1000mあたりから始まり、1700mあたりまで広がっています。針葉樹林の森は山の中にある放牧地帯にも入り込んでいます。もっと上の方へ行くと松の木、そして何もないアルプスのてっぺんとなるわけですね。
人口分布
アルプス地方の人口は少ないです。放牧のために夏の間移動する人や、避暑地として夏に訪れる人はたくさんいるのですが、一般的には交通が発達して、より生活しやすい地域へ引っ越す人が目立っています。
アルプスの産業
酪農と放牧
鋭い地表や寒い気候のため、あまり農業には向かない土地なのですが、重要なのは酪農や放牧です。冬は低い山間へ住み、春の終わりや夏の間に移動して放牧を行うスタイルがスロベニアにはあります。映画や小説などに、美しいアルプスの風景とともに酪農の様子が描かれているのですが、実際の仕事はとてもハードで、人気がありません。仕事量の割に収入が少ないのでしょうか。第二次世界大戦後はもっと新たな仕事を求める人が急増し、多くの農場は放棄されてしまいました。
観光
アルプス地方にはイェセニッツェとトゥルジッチという街があり、そこは産業が栄えています。したがって、そこの付近やもっと産業が栄えているリュブリャナ付近へ移り住む人が増えました。例えば、Posočjeという場所があります。ボヴェッツ、トルミンなどの街がある地域ですが、その上の部分は特にスロベニアの中部への交通路が絶たれていることで、引っ越す人が増えてしまいました。交通は不便ですが、住人は昔からイタリアや、オーストリア、コロシュカ地方の人たちと経済的、文化てなつながりを維持しています。交通機関が発展すればさらなる経済活動が望めるかもしれません。
しかし、アルプス地方はその自然の雄大さ、美しさから観光業が発達しています。海沿いの街だけではないのです。トリグラウやヴルシッチへの登山、今ではロッククライミンングを楽しむ人で夏は特に賑わいます。
ソチャ川ではキャンプ、カヤック、ラフティングを楽しむお客さんでいっぱいです。
しかし、アルプス地方はその自然の雄大さ、美しさから観光業が発達しています。海沿いの街だけではないのです。トリグラウやヴルシッチへの登山、今ではロッククライミンングを楽しむ人で夏は特に賑わいます。
ソチャ川ではキャンプ、カヤック、ラフティングを楽しむお客さんでいっぱいです。
写真13:ソチャ川の源流 |
終わりに
アルプス地方の自然は本当に壮大で美しいですね。ウィンタースポーツを楽しむ人には夏と冬問わず完璧な場所です。何度かこのアルプス地域に行って、実際に目でみて空気を吸ってリフレッシュしてほしいです。
しかし感じたのは、やはり住むにはちょっとまだ早いなということですね。利便性を追求する、また都市と繋がった日常を送ることを希望するなら、休日に訪れるのが一番。
携帯の電波も届きにくいところもありますし、気候の変動が大きいということは暮らしづらい一つの要因にもなります。
交通が不便とありましたが、なんとか日本のような電車やバスが通ってくれればいいなと思います。
ただ、このアルプス地方はスロベニアの財産だと思わずに入られません。
写真
- https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/1/17/View_from_Mangart_MC.jpg
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- 著者のもの
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- https://sl.wikipedia.org/wiki/%C5%A0kraplja#/media/File:Silberen_Detail.jpg
- https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/4/49/%C5%BDlebi%C4%8Di.jpg
- http://www.hribi.net/slika.asp?razmerekomentar=30407
- https://sl.wikipedia.org/wiki/Meli%C5%A1%C4%8De#/media/File:Stenarska_vratca.jpg
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