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スロベニアの地理④ プリモルスカ地方 Primorski svet

前回に説明した自然地理学的区分の地域から、一つずつゆっくり自然や見所を説明したいきたいと思います。ディナルスカ地方に続き、今日はプリモルスカ地方の説明をします。では以下に特徴を記していきます。



プリモルスカ地方の区分

プリモルスカ地方は、唯一自然地理学的区分と歴史的区分において名前が同じです。しかし、その領域は異なりますので注意が必要です。

写真1
 地図を見ますと、オレンジと黄色の部分に分かれていますね。黄色はフリッシュ地域、オレンジはカルスト地域となります。フリッシュ(英語ではflysch)とは堆積した不浸透性の砂岩でできた広範囲な地層で、ヨーロッパのアルプス地方によく見られる地形と言われています。

カルスト地形はディナルスカ地方でも記した通り、石灰岩など不浸透性の岩からなる土地のこと。それでは順番にプリモルスカ地方を見ていきましょう。

気候

プリモルスカ地方の気候はスロベニア内部のそれとは異なります。まず第一に、温暖な気候が挙げられます。プリモルスカ地方の気候は、スロベニアの中でも一番晴れの日が多いです。したがって果物の栽培や観光発展にも適している地方と言えるでしょう。地中海性気候と似ている部分があるのですが、秋の降水量が多いという点で、地中海性気候とは全く同じではないと言えます。

晴れの日が多いということは羨ましい限りなのですが、それなりに問題はあります。Burja(ブーリャ)と言うものすごい強い風が問題点です。この風は冷たい風で、高い方のディナルスカ地方(Visoke dinarske planote)から 低い方のプリモルスカ地方へ吹きます。

最も風にさらされる場所では時速200Kmの速さで吹く風なので、危険ですし冬は過ごしにくいです。車が横転したり、森やオリーブの木々を折ってしまったり、屋根が飛んでしまうことだってあるのです。中には屋根の上に石を置いて被害を受けないように工夫しているんです。

2. 写真はブーリャで屋根が飛ばないように石を載せている家のず。

 

人口

スロベニアの他の地域と比べて、プリモルスカ地方はより昔から人が移住していました。しかし郊外や丘続きの場所では、移住地は狭く移住者も少ないです。過疎化や高齢化が目立ってきていますが、もう100年前からこのような現象はありました。

一方で海岸付近やノヴァ・ゴリッツァ(Nova Gorica)という街では移住地は広く、人口が密集しています。
3. ノヴァ・ゴリッツァの様子

経済

 第二次世界大戦後、この地域は産業、観光業、そしてルカ・コペル(Luka Koper)という港が発展しました。スロベニアではStara Goricaと呼ばれていますが、今はイタリアのゴリチアという街があります。この街は以前は戦前、スロベニアの領域でした。しかし戦後、ゴリチアはイタリア領となり、ノヴァ・ゴリッツァに国境を立てました。コペルはこのノヴァ・ゴリッツァと同等の国境を海岸沿いの街に立てたのです。旧ユーゴスラビア時代、つまり共産主義の時代にこのコペルやノヴァ・ゴリッツァは、資本主義であった隣国のイタリアとつながりを保つ、最も開かれたヨーロッパの国境がある街として認識され、街も栄え出しました。イタリア人ももちろんスロベニアを訪れ、国境付近にはお店、ガソリンスタンド、レストランなどが立ち並びました。


3. コペルの様子

とても暖かい土地なので、農業は、ワイン産業、果樹農業、そしてガーデニングが盛んです。平らな土地が少ないので、農業の場としては、ヴィパウスカ・ドリーナ(Vipavska dolina)が重要な場所です。
産業は海沿いの街とノヴァ・ゴリッツァで盛んです。海沿いであり、国境に近い場所にある街ということで、交通、埠頭での仕事、お店経営、観光業といったサービス業が発展しました。交通機関や埠頭での仕事は、特にコペルにとって重要な産業でした。漁業、塩田の産業も海沿いの街で発展しました。なお、観光業は海岸沿いまた国境付近だけでなく、スロベニアの内部でも発達し、それぞれ異なるサービスを提供しておりました。

フリッシュ地方の特徴

プリモルスカのフリッシュ地方では、不浸透性の小石が堆積したものです。表面の土地が流れてしまうことがなく、すぐに肥料となることから肥沃な土地があります。水も表面を流れているので、カルスト地形の地域よりは農業が発達しています。

この地域の中でも多様性があります。この地域はKoprsko primorje、Gorška brda、 Gorška raven、Vipavska dolinaというように4つに分かれています。それぞれの特徴は以下のとおりです。 

Koprsko primorje

5. Koprsko primorjenoの場所を表す地図

 

コプルスコプリモリェといい、コペルの海岸地域という意味があります。この地域は最も地中海らしい特色を残している地域で、さらにSlovenska istra(スロベニアのイストラ半島部分)、Slovenska obala(スロベニアの海岸部分)と細かく呼ばれることがあります。

イストラ半島は、ご存知の通り大部分をクロアチアが占めていますが、スロベニアもコペル、イゾラ、そしてピランといった街はイストラ半島に属しているのです。

Koorsko primorjeはさらに短い海岸線とフリッシュ(不浸透性の砂岩)できた丘が離れにあります。海岸線の地域は人口が密集し、産業、農業、交通、観光、お店の経営など様々な活動が盛んです。ピランに近いストゥルニャンという街の海岸からは高い丘がそびえ、被害がないままで残っています。

第一次世界大戦後、プリモルスカ地方はイタリアの領土となってしましましたが、第二次世界大戦後、この地域に住んでいたイタリア人はイタリアへ移り、スロベニア人やクロアチア人が移住しました。今でもイタリア人のマイノリティーが住んでいて、スロベニア人と同等の権利が保証されています。その証拠にこの地域の公用語はイタリア語とスロベニア語となっており、標識も必ず二ヶ国語で表示されているのです。

海岸地域は早くに経済が発達しました。ルカ・コペルという港の発展が例に挙げられます。コペルはこの港もあることと、他のイゾラやピランといった街の中継地点となることからとても大切な街です。何度も言うように、観光業が発展していて、ポルトロシュ(Portorož)はスロベニアで唯一の高級リゾート地となりました。

またここの地域は海運業、漁業、そして塩田を使用した塩の生産が盛んです。漁業は、海岸が小さいため隣国または他の国からの輸入にも頼っています。今では貝や魚の養殖を行なっている地域もあります。 塩田を使った塩の生産は減少してしまいました。今はストゥルニャンとセチョウリェの2箇所に保存されており、未だに生産が続いています。

またワインやオリーブオイルの生産がこの地域の特別な産業ですね。スロベニアで生産されるワインのほとんどは白ワインなのですが、この地域ではTeran(テラン)Refošk(レフォシュク)といった赤ワインが有名です。オリーブオイルの生産は第二次世界大戦後に衰退しましたが、いま復興している分野です。

Vipavska dolina

ヴィパウスカドリーナも産業で栄えている地域です。特にアイドシュチナ(Ajdovščina)とノヴァ・ゴリッツァの二つが重要な場所です。他のプリモルスカにある地域と比べると、平らな土地があることが特徴で、農業、特にワイン産業が盛んです。この白ワインが最高です。私の友人がここ出身で、彼女のいとこがとっても美味しい白ワイン作っているんです。防腐剤など一切ないので悪い酔いしないのが嬉しかったです。

Goriška brda 

ゴリシュカブルダは、ワインと果物生産が盛んなところで有名です。この地域は長年、労働の中心地であったノヴァ・ゴリッツァへ行くための交通路が遮断されていましたが、イタリアとの交渉により、ソボティンという山上に国境を設けよりスムーズにプリモルスカ地方内を移動できるようになりました。

6. 写真映えするGoriška brda


また近くにはアドリア海の気候の特徴を持つ、Spodnja Soško Dolina、世界遺産のシュコツィヤン鍾乳洞を作る川のレか川もこの地域にあります。

カルスト地方の特徴 

スロベニア語ではKrasといいます。最初の文字を大文字で書いてあるKras(カルスト)の意味はトリエステ湾とヴィパヴスカドリーナの間にある石灰岩でできた台地を意味します。かつて科学者たちは広い意味で、まだ知られていなかったカルスト現象を最初の文字を小文字にして記しましたが、やがてカルスト現象を持った特徴ある大地だということで、Krasと呼ばれるようになりました。 今では、世界中の言語でKrasという言葉が使用されているのですが、スロベニアが最初に名前をつけたということはあまり知られていません。

ですから、もし最初の文字が大文字で書かれた場合はスロベニアのKras(カルスト)地域、もし小文字で書いてある場合には、様々な場所で見られるカルスト地域に類似した現象、つまり石灰岩やそれに類似した石があり、川が地下で消え、様々なカルスト現象を引き起こす土地だと理解しましょう。

ではスロベニアのKras地方って?

今のKras地方は、スラヴニク山脈の近くまで広がり、石灰岩が豊富な土地だと言えます。今日のKras全体が森に覆われていることも特徴です。この地域の大きな街は、セジャーナ(Sežana)で、この街もやはりイタリアの国境付近にあることから栄えた街でした。農業に関しては、表面にある水が少ない事と土地がデコボコしているため、フリッシュ地方の方が盛んであると言えます。

農家は大きな陥没穴の底などから石を取り出し土地を整えてきました。取り出して石で石塀を作っており、この石塀は多くの森に見られます。つまり、これは多くの農場が放棄されたということを示しています。

実はKrasはスロベニア語でJerovica、イタリア語ではTerra rossa(テラロッサ)と言われる、赤い土があります。このような土は、多くの雨水が石に含まれる炭酸カルシウム内にある炭素を溶かし、土壌にあるケイ酸塩が進出します。そうすると後に酸化鉄が残ることで鮮やかな赤色の土が残るのです。炭酸カルシウムを含む石、つまり石灰岩がないとできない土壌なんですね。

7. 赤い土。


この土地は、非常に水はけがよく、こういった土地はワインのためのぶどうの木を育てるのにぴったりなのです。この土地ではTeran(テラン)と呼ばれる赤ワインが有名です。またこの地方の生ハムは有名。イタリアやスペインだけでなく、美味しい生ハムはスロベニアでもご賞味いただけるんですよ。

8.生ハムは切り方も大事です。

 終わりに

プリモルスカ地方は産業もさることながら、グルメにはとってもたまらない場所かもしれません。良質のワイン、塩、オリーブ、オリーブオイル、シーフードなどなど。やはり、イタリアのお隣ということで、グルメだったりした雰囲気がある地域です。 

冬の観光はブーリャのためお勧めできませんけど、それ以外の季節は大丈夫。夏は泳げるし、可愛らしい海岸の街並みも楽しめます。時間を気にせずゆっくり楽しんでほしい地域です。

写真のリンク 

  1. Snegačnek, Drobnjak, Otič "Živim v Sloveniji" p126
  2. http://www.modrijan.si/slv/content/search/(offset)/2660?SearchText=&SubTreeArray=2
  3. https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/1/1f/Nova_Gorica_0720069_1600x1062_77.jpg
  4. https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/8/89/Luka_Koper_Panorama.jpg 
  5. https://www.google.si/url?sa=i&rct=j&q=&esrc=s&source=images&cd=&ved=0ahUKEwicgdCC4rTWAhVGtBQKHcErCGYQjBwIBA&url=http%3A%2F%2Fwww.modrijan.si%2Fslv%2Fcontent%2Fdownload%2F12573%2F135225%2Ffile%2F167.jpg&psig=AFQjCNGv635ne0I28M7UYcq1BhkkZc9b5Q&ust=1506031320532997 
  6. https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/3/3c/Goriska_brda.jpg 
  7. https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/8/8a/Malvasia_Vine_on_Terra_Rossa_soil.JPG 
  8. http://www.sloveniatimes.com/kraski-prsut-gets-eu-protected-designation-of-origin-label/2 

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